大判例

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大津地方裁判所 平成7年(ワ)121号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一〇〇万円及びこれに対する平成三年四月一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六三年、株式会社リゾート・イン・京都を設立した。

2  平成元年一〇月一日、リゾート・イン・京都は、被告との間で、以下とおり、被告が保養所施設二棟を建設し、リゾート・イン・京都が厚生年金基金等団体向けの保養施設として賃借するとの契約を結んだ。

〈1〉 物件の所在地 イ棟―京都市左京区大原来迎院町四七九番地

ロ棟―京都市左京区大原来迎院町一三九番地

(以下「本件保養所」という。)

〈2〉 被告は、平成二年四月一日までに本件保養所を、リゾート・イン・京都の利用客が利用できるようにする。

〈3〉 被告は、什器・備品等の設備一切を負担し、リゾート・イン・京都の利用客に食事等を提供する。

〈4〉 光熱費、給水衛生費、クリーニング代等の諸雑費は、リゾート・イン・京都の利用客の実費負担とし、リゾート・イン・京都は、被告からの一か月毎の請求に基づき、これを支払う。

〈5〉 賃料 イ棟―年額一一〇〇万円(管理手数料を含む。)

ロ棟―年額九〇〇万円(管理手数料を含む。)

〈6〉 契約期間は、平成一二年三月三一日までとする。

3  平成二年七月一六日、リゾート・イン・京都は、被告との間で、本件契約につき、契約代金を三〇〇〇万円に改めた。

4  平成二年七月三一日、リゾート・イン・京都は、全国情報処理産業厚生年金基金(以下「訴外基金」という。)との間で、次のとおり、保養所利用契約を結んだ。

〈1〉 保養所施設物件の表示

京都市左京区大原来迎院町四七九番地・一三九番地所在の建物二棟及び付帯する日本庭園、茶室、駐車場等一式

〈2〉 利用期間 平成二年八月一日から同三年三月三一日まで

なお、契約期間満了により更新しない場合は、訴外基金はリゾート・イン・京都に対し、五か月以上前に連絡するものとする。

〈3〉 利用料金 イ棟―年額二二〇〇万円

ロ棟―年額一三〇〇万円

5  平成三年三月二七日、被告は、訴外基金との間で、本件保養所につき施設利用契約(以下「本件直接契約」という。)を結び、そのためリゾート・イン・京都は本件基金との契約更新を拒絶された。

6(一)  被告は、リゾート・イン・京都との契約において、ユーザーとの間で契約締結をしない旨合意していたにもかかわらず、訴外基金との間で本件直接契約を結んだのであるから、右合意に反する債務不履行にあたるというべきである。

(二)  被告は、リゾート・イン・京都に本件保養所を賃貸し、同社と訴外基金との間に右保養所の利用契約があることを知りながら、あえて本件直接契約を結び、リゾート・イン・京都の契約関係を侵害したものであって、信義則違反に基づき不法行為を構成するというべきである。

7  被告が訴外基金と直接契約を結んだために、リゾート・イン・京都は、訴外基金との施設利用契約によって、平成三年四月一日から同五年三月三一日までに支払われるべき利用料金合計三六〇〇万円を失った。

8  原告は、リゾート・イン・京都から、右損害賠償債権を譲受け、平成七年四月六日に送達された訴状によって、譲渡通知を行った。

9  よって、原告は、被告に対し、右損害額のうち一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成三年三月二七日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は明らかに争わない。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実は否認する。

4  請求原因4の事実は明らかに争わない。

5  請求原因5の事実のうち、被告が直接契約を結んだことは認めるが、その余は知らない。

6  請求原因6(一)、(二)の主張は争う。

7  請求7、8の事実はいずれも知らない。

三  抗弁

1  リゾート・イン・京都は、被告が本件保養所の管理にあたり、クリーニング代及びプロパンガス代について合計一三一万二二九四円を水増し請求し、代金をだまし取ったとして、被告に対する損害賠償請求の訴えを提起し(京都地方裁判所平成三年(ワ)第一二六五号)、被告は、リゾート・イン・京都が負担すべき本件保養所運営にかかる諸雑費の一部を支払わないとして、リゾート・イン・京都に対する未払金請求の訴えを提起した(同地方裁判所平成三年(ワ)第一七三二号)。

2  前項の両事件は、併合審理の上、平成四年一月二〇日、次のとおり、和解が成立した(以下「本件和解」という。)。

〈1〉 リゾート・イン・京都及び被告は、双方の請求債権の存在を認め、対当額について相殺により消滅したことを確認する。

〈2〉 リゾート・イン・京都及び被告は、大津簡易裁判所平成三年(ロ)第四五五号督促事件に関する債権を除くその余の権利を放棄し、その間に何らの権利義務がないことを確認する。

〈3〉 訴訟費用は各自の負担とする。

3  本件請求は、右和解の内容に抵触するものであるから、棄却されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  抗弁2記載の日にリゾート・イン・京都と被告との間で和解が成立したことは認める。

しかし、右和解においてリゾート・イン・京都が放棄したのは、電気スタンド三台、ラジカセ五台及び文芸カセット五巻のみであった。

即ち、抗弁1記載の両事件はいずれも訴額が一〇〇万円ないし二〇〇万円程度の事件であり、そこでの和解においてリゾート・イン・京都の被告に対する全ての権利を放棄したと解するのは相当ではない。

第三  証拠(省略)

理由

一1  請求原因1の事実は被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、同2の事実は当事者間に争いがない。

2(一)  成立に争いがない甲第六号証によれば、平成二年七月一五日、リゾート・イン・京都と被告との間で、本件保養所をリゾート・イン・京都の顧客に利用させることを目的として、保養所施設利用契約を締結し、その契約代金は一年当たり三〇〇〇万円とし、右契約の期間は平成二年七月一六日から同三年三月三一日までであり、期間満了の場合、リゾート・イン・京都は営業補償等の請求をしないこと、本件保養所で使用する什器備品等について、被告が利用料金としてリゾート・イン・京都の顧客から徴収できること等の合意がされたこと、リゾート・イン・京都と被告とは、右契約とあわせて、同月一九日、大原保養所・管理運営契約書を作成し、被告が行う本件保養所の管理の具体的内容を取り決め、その中で光熱費、給水衛生費、クリーニング代等の諸雑費はリゾート・イン・京都の実費負担とすること等が合意されたことの各事実が認められる。

(二)  右認定の事実に争いのない請求原因2の事実を合わせて考えると、リゾート・イン・京都と被告とは、平成元年一〇月一日に締結した契約を前提として、本件保養所が完成したことを踏まえて、契約期間や代金、本件保養所の管理方法等について変更を加えつつ、その内容をより詳細なものに改めたと認められる。

3  請求原因4の事実は被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、同5の事実のうち、被告が本件基金と直接契約を結んだことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第二四号証の二及び弁論の全趣旨によれば、平成三年三月末日をもってリゾート・イン・京都と本件基金との契約は期間満了により終了したことが認められる。

二  抗弁について

1  抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

2(一)  成立に争いがない甲第一四号証によれば、抗弁2記載の内容の和解が成立したことが認められる。

(二)  原告は、右和解によって、リゾート・イン・京都が放棄したのは右訴訟における請求債権と電気スタンド三台、ラジカセ五台及び文芸カセット五巻のみであったと主張するので、その点について検討する。

前掲甲第二四号証の二、いずれも成立に争いがない甲第八号証ないし同第一〇号証、同第一二号証、同第一三号証及び同第二九号証によれば、平成二年一二月末ころ、リゾート・イン・京都が、被告に対し、衛生費・消耗品費等の経費を水増し請求しているとの疑いの下に、その内容を明らかにするよう求める内容証明郵便を送付し、被告は、本件保養所の管理方針について、リゾート・イン・京都との間で対立し、同社との再契約の意思はなく、損害賠償請求も考慮中である旨代理人を通じて連絡していたこと、同三年六月にリゾート・イン・京都から被告に対する損害賠償請求訴訟が提起され、同年八月に被告からの未払金請求訴訟が提起されたこと、原告は、同年九月一七日に、自己破産を申し立て、破産に至った原因の一つとして、原告が経営していたリゾート・イン・京都が、本件保養所の利用契約によって月額一五〇万円の収入を得ていたにもかかわらず、被告が利用者である訴外基金との間で直接契約を結んだために、その収入を失ったことを挙げていたこと、本件和解条項に挙げられている大津簡易裁判所平成三年(ロ)第四五五号督促事件とは、被告のリゾート・イン・京都に対する貸付債権に関する事件であること、の各事実が認められる。

右認定の事実によれば、原告は、少なくとも自己破産を申し立てたときには、被告が訴外基金と直接契約を締結したことによって、財産を失うに至ったとの認識を有していたというべきであり、被告と原告(及びその経営するリゾート・イン・京都)とは、平成二年末ころから対立状態にあり、右直接契約締結以降は両者の関係は完全に破綻していたのであるから、その後に成立した本件和解において、被告が、リゾート・イン・京都に対する貸金債権を放棄の対象から除外したのに対し、原告において、本件訴訟において請求している損害賠償の問題を提起することを躊躇させる事情があったとは認められないことからすれば、本件和解において放棄する権利の内容をあえて当該訴訟における請求債権及びそれに付随する少額の権利に限定する理由はなかったと認めるのが相当である。

したがって、本件和解において放棄した「その余の権利」は電気スタンド三台等の所有権のみであるとする原告の主張は認められない。

3  以上によれば、前記一1ないし3の事実から、リゾート・イン・京都が被告に対して損害賠償請求権を取得するとしても、右債権は本件和解において放棄されて消滅したというべきである。

三  よって、原告の請求はその余については判断するまでもなく理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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